『手紙』  作:ごまべーぐるさん

後藤さんにお手紙を差し上げるのは初めてですね。
改めて、お元気ですか。
よくメールしてるし、たまに電話もするので、こうやってお手紙を書くのは照れくさ
いのですが。
メールとかでなく、ちゃんとおはなししたかったので、こうやってペンを執ることに
しました。


わたし、紺野あさ美はモーニングを卒業して、ハロプロも辞めることにしました。
一般人に戻ります。
この夏、高卒認定試験というのを受けて、大学受験することにしました。
随分悩んだのですが、これから先、自分がどうしたいのか考えて、決断しました。
全然相談とかしなくてごめんなさい。
後藤さんには、一番言いづらかった。
わたしみたいな、特に取り柄もない子とお付き合いしてくださってる、奇特な貴女
を、困らせたくなかった。
これ以上、わがまま言いたくなかった。
本当に、ごめんなさい。
貴重なお時間を割いて、あちこち連れて歩いてくださって、ありがとうございまし
た。
ひとつひとつが、大切な想い出です。
決して忘れません。
これからは、テレビの向こうから応援してます。
一般人に戻っても、わたしが一番の後藤真希ファンです。
なーんて。


本当に、だいすきでした。
いまも、きっと。


さようなら。


お体、おだいじに。


後藤真希サマ


   紺野あさ美



「ナニこれ?」

モーニングの楽屋で紺野あさ美を捕まえた後藤真希は、先日届いた手紙を突きつけて
冷ややかな目で紺野を見た。
「モーニングやめるうんぬんは、まあ、いいわ。てか、別れの手紙みたいじゃんコレ」
「そのつもりで書いたのですが」
紺野はおろおろしながらも、揺ぎ無い視線を後藤に向ける。
そこが、付き合いだした当時との違いだった。
変わったな。
後藤は見つめられながら、そっと目を伏せる。
「わたしみたいな、特に取り柄もない子とお付き合いしてくださってる、奇特な貴女
を困らせたくなかった」
「…ちょ!読み上げないでください!」
紺野は赤くなって、便箋を後藤から引っ手繰った。
「あの」
「なに?」
「わたし、間違えて送ったようです。すみません」
「はあ?」
「本当は、こっちです。すみません」
紺野は鞄から、ごそごそ薄いピンクのレターセットを取り出した。
後藤は渡されたものに、ざっと目を通した。
内容は、芸能人を辞めて一般人に戻る、これからもテレビの向こうで応援してる、と
殆ど間違えて送ったというものと
変わらなかったが、紺野の本心については皆無というほど触れていなかった。
「あの…さすがにくどいくらい本心出しすぎかなって反省しまして…こっちを書き直
しまして」
うっかり最初に書いたものを封筒に入れてポストに投函してました。
紺野はそう言って赤くなり、肩をすくめた。
「―――ばか!」
いきなり、後藤は叫んだ。
さすがに紺野もぎょっとする。
「ばかばかばかばかばか!紺野、こんなうっかりミスするよーじゃコーソツニンテイシケン?絶対落ちるね。間違いナシ」
「…な!ちゃ、ちゃんと勉強してるもん!」
思わず敬語を忘れて言い返す紺野だった。
「後藤と別れてまでしたいことってなんなのよ?」
後藤は便箋をテーブルに放り出し怒っていた。
「別れてまでっていうか…大学で勉強したくなったんです」
「じゃ、別れるひつよーないじゃん」
「一般人に戻るのだからムリです」
「はあ? ワケわかんね」
「後藤さんのがワケわかりません」
「もう愛してないのね」
後藤はちょっと小芝居を入れ、今着ている白いジップアップのパーカーでオイオイ涙
を拭うフリをした。
「後藤捨てられるんだ。大学よりもレベル下なんだ」
「あの?」
「後藤、大学に負けたんだ」
「後藤さん、ハナシ聞いてます?」
「ナニ大学か知んないけど、ソイツよりもミリョクないんだ」
「…ハア」
紺野はため息をついて、肩を落とした。
「とにかく」
「なにさ」
「わたし、一般人に戻るのですから、これ以上あなたに迷惑かけれません。あしからず」
「なにさ、あしからずって」
「相手の希望とかが通らない場合、使う言葉です。『ごめんね、悪く思わないでね』的な言葉です」
「ムカ」
「ムカて。実際言ってるヒト、初めて見ましたよ」
「そおゆうこと聞いてんじゃないよ。後藤のこと好きなの?」
「は、はい」
「じゃ、今までどーりでいいじゃん」
「今までどーりっていうわけにはいかないから手紙を書いたんです」
「なんでさ」
「好きだからこそ、身を引くんです」
「はあ?後藤には理解ふのーな世界だね」
「理解不能でもなんでも、決めたんです」
「後藤は決めてない」
「わたしは決めたんです」
「紺野のクセにナマイキだ」
後藤はがしっと肩を掴んで、唇を奪った。
最初はちょっと抵抗して後藤の肩を押し返していた紺野も、観念して後藤の唇を堪能
する。
「ほらー」
後藤は唇を離したあと、勝ち誇ったように言う。
「キスでこんなに感じてんじゃん。コレで後藤から離れられんの?」
「…ホンット、あなたってひとは!」
蹂躙された唇を腕で拭い、紺野は涙目で睨む。
「―――ダイッキライ!」
「お、そのちょーし」
「はあ? ダイキライって言われて嬉しいんですか?ヘンなの!」
「紺野ってなっかなかホンシン?言わないじゃん。だから」
「…はあ」
「まあ、これで一般人に混じってもだいじょーぶか。紺野がホントに別れたいってゆーんなら、後藤は涙を飲むよ。がんばれ」
肩を叩いて、後藤は楽屋から出て行こうとする。
後藤さんがここを出て行ったら、もう会えない。
紺野は叩かれた肩を自分で抱いて、泣きそうになる。
「紺野のばーか。大学なんか落ちちゃえー」
あっかんべーをして、『じゃ』と後藤は笑ってドアを閉じようとする。
いつもいつもひとのこと振り回して。
自分勝手で。
そのくせ、物凄くやさしくて。
いつも、あたしのことを一番に考えてくれてた。
「後藤さん!」
「あ?」
「だいすきです!」
後藤は黙って笑い、もう一度紺野の肩を抱いて口づけた。



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後藤さん、お元気ですか。
わたしはいま、高卒認定試験に向かって猛勉強してます。
(あ、勉強さぼって手紙書いてていいのか?っていま手紙に向かってツッコんだで
しょ? いいんですぅー(笑))
後藤さんのライブ、今度見に行きますね。
というか、『終わったら遊び行こう』って大丈夫なんですか?


言い忘れてましたが、あなたの自分勝手なトコ、ホンッキで直したほーがいいと思い
ます!
いくら芸能人だからって、後藤さんのは問題アリです!


でも、あなたのそういうトコが、本当に羨ましかった。
わたしには、まぶしい存在でした。


ではまた。


後藤真希サマ


    紺野あさ美


☆ 終 ☆